2021年11月、病院が介護施設や教育機関と連携してヤングケアラーを支援した場合に報酬を加算する検討が始まりました(厚生労働省)。今回は、具体的にどのような案なのか、診療報酬(改定)とは?などを元MSWが解説します。
【概要】〈ヤングケアラー支援に報酬〉とは?
大人に代わって家族の家事や介護を担う子ども「ヤングケアラー」について、厚生労働省は医療機関がヤングケアラーを自治体の支援窓口などに連絡した場合に、診療報酬を加算する方針を固めた。医療機関からの情報提供を促して子どもたちが支援を受けやすくなるようにするねらいで、来年度からの実施をめざす。
朝日新聞「ヤングケアラー」情報提供した医療機関へ報酬 厚労省が方針 (12,Nov,21)

病院関係者以外の方には日本語に見えないかもしれませんので1つずつ解説していきますね。
「病院がヤングケアラーの存在を把握し、支援窓口などに連絡した場合には〈診療報酬〉を算定できるようにする。算定にあたって、現行の〈入退院支援加算〉を活用する。」と、こういう訳のようです。これでも説明にはなっていないと思います。
とりあえず、〈病院でのヤングケアラー支援によって、病院にお金が入る【条件付き】ようになる〉、〈お金を得るための条件については、現在既に運用されている【入退院支援加算】という仕組みを使う〉とお考えください。
この後の内容
- 診療報酬とは?
- 診療報酬改定とは?
- 加算って何?
- 入退院支援加算って何?
このあたりを説明していきます。最後には私(元MSW・元ヤングケアラー)の個人的感想も書いておきますので宜しければぜひご査収ください。
〈参考記事〉
「ヤングケアラー」情報提供した医療機関へ報酬 厚労省が方針(朝日新聞)
病院でヤングケアラー支援 報酬加算へ 孤立化解消向け(日本経済新聞)
ヤングケアラー支援へ診療報酬〜患者の退院後、連携を促進〜(熊本日日新聞)
【概要】診療報酬とは?診療報酬改定とは?
〈診療報酬〉=〈医療行為に対する対価〉です。
医療行為とは、診察・処方等のことを言います。国が診療報酬として決めてくれているおかげで、国内どこの医療機関を受診しても〈Aをしたら50点〉〈Bをしたら30点〉等、一定の金額で医療行為を受けることができます。点数を足して費用を算出します。ちなみに、1点が10円です。



入院の寝巻き代や書類作成代等自費の部分は診療報酬の対象外です。
参考
先ほど〈診療報酬〉=〈医療行為に対する対価〉であるとお伝えしました。この項目では〈診療報酬改定〉について説明します。
診療報酬は、技術やサービスの評価である医科診療報酬・歯科診療報酬・調剤報酬と、物の評価である薬価・材料価格に分けられます。診療報酬改定は、上記報酬の内容や点数の見直しを行うために、原則として薬価については1年に1回、その他の報酬や価格については2年に1回実施されます。
公益社団法人 看護協会「診療報酬改定とは」24,Jan,22取得
診療報酬改定と言ってもそんなに難しいものではありません。「診療報酬(診療費・報酬が支払われる条件)を変えますよ」と。それだけです。薬価(やっか:薬代)については1年に1回。その他は2年に1回の頻度で改定されます。
その時の社会情勢や地域ごとの医療格差の状況等を踏まえながらその是正を目的に改定します。
参考
診療報酬改定のスケジュール
「令和2年度診療報酬改定のスケジュール」(厚生労働省)
〈加算とは?〉
これは、あげるとキリがありません。
有名なのは時間外加算でしょうか。〈時間外に受診したら、想像以上に病院代が高かった。〉ということはありませんか?時間外に受診をすると時間内に受診するより高くなります。それは、一定の条件下で〈時間外加算〉が算定できるようになっていることが理由です。(各病院で自由に設定しているわけではなく、国がそのように取り決めています。)
加算をまとめてくれている本やサイトがあります。私が在職中に使用していたのは「診療点数早見表」(5000円くらいします。)と「しろぼんネット」です。ご興味ある方はぜひご覧になってみてください。
【詳細】ヤングケアラー支援に関連する診療報酬
【概要】入退院支援加算(にゅうたいいんしえんかさん)



入退院支援加算はこのように説明されています。
患者が安心・納得して退院し、早期に住み慣れた地域で療養や生活を継続できるように、保険医療機関における退院支援の積極的な取組みや医療機関間の連携等を推進するための評価
厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の概要(P9)」(最終更新:4,Mar,16)
つまり入退院支援加算とは
- 入院生活からスムーズに地域生活・療養に移行できるようにする。
- 目標達成のため、医療機関同士の連携を進めていくようにする。
という考えの下に設置された加算です。
〈住み慣れた地域で生活する〉について
【院内での運用】入退院支援加算の算定条件
〈算定条件〉と聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、〈医療機関がお金(診療報酬)を受け取る条件〉とお考えください。
〈退院困難な要因〉を有している患者を抽出します。
〈退院困難な要因〉は国で決められています。
退院困難な要因
- 悪性腫瘍、認知症又は誤嚥性肺炎等の急性呼吸器感染症のいずれかであること
- 緊急入院であること
- 要介護状態であるとの疑いがあるが要介護認定が未申請であること
- 家族又は同居者から虐待を受けている又はその疑いがあること
- 生活困窮者であること
- 入院前に比べADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要/必要と推測されること
- 排泄に介助を要すること
- 同居者の有無に関わらず、必要な養育又は介護を十分に提供できる状況にないこと
- 退院後に医療処置(胃瘻等の経管栄養法を含む。)が必要なこと
- 入退院を繰り返していること
- その他患者の状況から判断して以上10項目に準ずると認められる場合
18,Mar,22追記
診療報酬について検討する会議にて、以下2項目が追加されました。尚、これに伴い「その他患者の状況から判断して以上10項目に準ずると認められる場合」という項目が10から12に変更されました。
- 家族に対する介助や介護等を日常的に行っている児童等であること。
- 児童等の家族から、介助や介護等を日常的に受けていること。
本件の当該ページは、中央社会保険医療協議会総会(第516回)議事録のP246(9,Feb,22開催)です。
STEP1の11項目に該当する患者さんに対して、退院支援計画書を作成に着手します。病院スタッフより、患者さん・ご家族に対して退院先の意向に関する確認が入ります。
退院支援計画書の内容
- 患者氏名、入院日、退院支援計画着手日、退院支援計画作成日
- 退院困難な要因
- 退院に関する患者以外の相談者
- 退院支援計画を行う者の氏名
- 退院に係る問題点、課題等
- 退院へ向けた支援概要
- 予想される退院先
- 退院後の利用が予測される福祉サービスと担当者名・・・・・・など
病棟看護師、入退院支援を専門とする職員(退院支援看護師・MSW)、その他関係職種が、患者さんや家族の希望、現在の病状を踏まえ、退院先検討のためのカンファレンス(会議)をします。STEP2で着手した退院支援計画書を作成します。
ここで言う〈カンファレンス〉は、退院前に患者さん・ご家族や関係機関が参加するカンファレンスとは異なります。
カンファレンスの結果とは、患者さんが退院するに際して必要な支援内容のことです。よくある支援内容は〈各種サービスの導入支援や、関係期間との情報共有〉などです。完成した退院支援計画書をご本人/ご家族に渡して説明します。
入退院支援加算の中にも1~3まであります。今回は〈入退院支援加算1〉のおおまかな内容をご案内しています。退院時に1回のみ算定。患者さん逝去時や支援不要と判断された時は算定されません。
質の高い入退院支援を推進する観点から、入退院支援加算の要件を見直すとともに、ヤングケアラーの実態を踏まえ、入退院支援加算の対象患者を見直す。(P12)
第512回 中央社会保険医療協議会 総会(公聴会)(31,Jan,22取得)
中央社会保険医療協議会(診療報酬について検討する機関)の総会(21,Jan,22実施)の中で上記の通り話が出ています。〈対象患者を見直す〉というのは、STEP1の11項目の再編の可能性を示唆するものです(※1)。現行制度内での対象者にヤングケアラー関連の文言を入れるという意味です。
18,Mar,22追記 (※1)について
STEP1に追記した通り、従前の11項目に2項目が追加され、令和4年度からは全13項目になります。
【まとめ】元MSW・元ヤングケアラーが思うこと
元MSWとして
2021年3月、厚生労働省と文部科学省が共同でヤングケアラー支援を目的としたプロジェクトチームを立ち上げました。(詳細:厚生労働省「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」・朝日新聞「「ヤングケアラー」支援チーム 厚労・文科、月内にも」)
プロジェクトチームの会合の中でこのような発言がありました。
「専門職(ケアマネージャー・医療ソーシャルワーカー等)の方には新たな負担をお願いすることになりますので、専門職の方が関係機関につないでいただく労に報いるような支援策を検討していきたいと思います。
ヤングケアラープロジェクトチーム:第4回 議事録
「労に報いるような支援策」とはどういう方法が考えられるか。これは「元ヤングケアラーが読む。|第4回ヤングケアラーPTの議事録。」(本サイト他記事)で「医療ソーシャルワーカー(MSW)については診療報酬に組み込む(=医療機関がヤングケアラーを支援した時、報酬が発生するような体制にする)ことくらいしか思い浮かばない。」と申し上げていました。「やはりこうきたか。」というのが私の感想です。
常に経営難にあえぐ病院において〈報酬を貰えないけれど、必要だから支援しなければ〉よりは〈支援したらお金がつくようになりました〉の方が、院内での優先順位が上がります。また、知り合いが所属する某県のMSW協会では今回の診療報酬改定を機にヤングケアラーに関する勉強会を予定しているとのことです。ヤングケアラー支援が診療報酬に組み込まれた影響を感じます。組み込まれなければ行われなかった勉強会かもしれません。
最初は訳も分からず加算ありきの入退院支援加算になることが予想されますが、令和4年度の診療報酬改定をきっかけに病院内での〈ヤングケアラー〉の認知度が上がっていくことを期待します。
元ヤングケアラーとして
今回は〈入退院支援加算〉を活用してヤングケアラー支援をする方向で動いています。
しかしながら、文字通り規定の入退院支援をした際に算定できる加算であるため、外来の患者さんや医療機関とつながっていない方には適用されません。
入院している方の家族だけがヤングケアラーではありませんので、今回の診療報酬改定を足がかりにさらなる変更がなされることを期待します。算定方法にはまだ議論の余地があると思います。
いかがでしたでしょうか。ご質問等は「お問い合わせ」ページより承っております。